会社売却のメリット
後継者不在問題を解決できる
中小企業の多くが直面している課題の一つが、後継者不在問題です。日本国内の経営者の平均年齢は年々上昇しており、2024年時点では約60.7歳とされています。特に地方の中小企業では、子どもや親族が事業を継ぐことを希望しないケースも多く、廃業件数の増加が社会問題になっています。
このような中で、会社売却(M&A)は、事業を継続する有効な選択肢となっています。後継者候補が親族や社員の中にいない場合でも、外部の企業や投資家が買い手となることで、企業の存続が可能になります。
買い手企業にとっても、新規事業の拡大やシナジー効果の実現が期待でき、Win-Winの関係が築けます。
まとまった資金が得られる
会社売却を行うことで、売却代金という形でまとまった資金を得ることができます。
この資金は、経営者のリタイア後の生活資金や、新たな事業への投資、資産運用、負債の返済など、さまざまな用途に充てることができます。長年培った事業の価値を金銭的に回収することで、経営者の人生設計にも大きな余裕が生まれます。
従業員の雇用を維持できる
廃業を選択すると、従業員は職を失い、取引先にも多大な影響を与える可能性があります。一方、会社売却を選べば、雇用契約をそのまま引き継ぐケースが多く、従業員の生活を守ることができます。
買い手企業によっては、従業員の待遇を改善したり、新たなキャリアパスを提供する場合もあり、従業員にとっても好ましい環境が得られる可能性があります。
会社売却の注意点
悪質な買主に購入されるリスク
すべての買主が誠実とは限りません。中には、企業価値を低く見積もり、安値で買収した後に資産だけを切り売りしたり、従業員を解雇したりするなど、経営者の意図と異なる経営を行う企業も存在します。
そのため、買主候補の企業情報(業績、経営方針、企業文化など)を十分に調査し、必要であれば専門家の意見を仰ぎながら慎重に交渉を進めることが重要です。
悪質な仲介業者へ依頼するリスク
M&Aを専門とする仲介会社は多く存在しますが、その質は玉石混交です。中には、成功報酬が高すぎたり、十分なサポートを提供しないまま手続きを急がせたりする業者もあります。
悪質な業者を避けるには、以下のポイントを確認することが大切です:
- 成功報酬体系が明確か
- 過去の実績や取引事例が確認できるか
- 担当者の専門知識と経験が豊富か
信頼できる仲介業者とのパートナーシップは、会社売却の成否を左右する重要な要素です。
会社売却の相場
会社売却の価格は「企業価値評価(バリュエーション)」によって算出されます。評価方法にはいくつかの手法があり、それぞれの特徴と適用シーンがあります。
主な企業価値評価手法
(1)純資産法
会社が保有する資産から負債を差し引いた金額を基準に評価します。特に不動産や有価証券などの保有が大きい企業に適用されやすい手法です。
(2)類似会社比準法
同業種の上場企業や売却事例と比較し、売上高やEBITDA(営業利益+減価償却費)の倍率をかけて企業価値を算出します。
(3)DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)
将来のキャッシュフローを予測し、現在価値に割り引いて評価する方法です。高成長が期待できる企業で多く用いられます。
業種別の相場例(EBITDA倍率)
- 製造業:5〜8倍
- IT企業:8〜15倍
- 飲食業:3〜5倍
- 建設業:4〜6倍
- 医療・介護:5〜7倍
企業価値は、財務状況に加え「のれん価値」(ブランド、取引先との関係性、従業員の質)など無形資産も含めて総合的に判断されます。
会社売却の流れ
売却プロセスは大きく8つのステップに分けられます。準備からクロージングまで、各段階で注意すべきポイントがあります。
売却に必要となる基本情報の把握
最初に会社の実態を明確にすることが必要です。主な項目は以下の通りです:
- 直近3〜5年の財務諸表
- 主要契約書類(賃貸契約、取引契約、雇用契約など)
- 保有資産や負債の一覧
- 事業内容や顧客リスト
これらを整理しておくことで、買主への説明や評価作業がスムーズに進みます。
買主候補の情報収集、選定
希望条件に合った買主を見つけるには、自力で探す方法、仲介業者に依頼する方法、M&Aプラットフォームを活用する方法があります。
候補企業の業種、規模、地域、経営方針などを基に、複数の選択肢を検討するのが理想です。
秘密保持契約(NDA)の締結
会社の売却情報が外部に漏れると、従業員の動揺や取引先の不信感につながります。買主候補とは、交渉開始前に秘密保持契約を交わし、情報の保護を徹底します。
スキームの検討
売却の方法には以下のようなスキームがあります:
- 株式譲渡(会社全体を譲渡)
- 事業譲渡(一部事業を切り出して譲渡)
- 合併(買主企業と統合)
- 吸収分割、新設分割(事業の一部を分割して譲渡)
税務や法務、従業員への影響を考慮し、最適なスキームを選択します。
基本合意書の締結(LOI)
条件面で大筋の合意ができたら、基本合意書(Letter of Intent)を締結します。法的拘束力は弱いですが、価格帯や買収スキーム、デューデリジェンスの予定などを記載します。
デューデリジェンスの対応
買主側が会社の実態を詳細に調査するプロセスです。以下の観点で行われます:
- 財務デューデリジェンス(収益、資産、債務など)
- 法務デューデリジェンス(契約書、知的財産権など)
- 税務・労務デューデリジェンス
調査結果により、契約条件が修正されることもあります。
最終契約の締結
デューデリジェンスが完了し、最終的な合意に至ると、売買契約書(SPA)を締結します。ここでは価格、引渡日、表明保証、補償条項など、詳細条件が明文化されます。
クロージング
契約に基づいて、代金の支払い、株式や資産の譲渡、役員の変更などが実行されます。クロージングの完了をもって、正式に会社売却は完了となります。
まとめ
会社売却は、後継者不在や経営者のリタイア、新たな事業展開のための有力な選択肢となります。一方で、買主選定やスキーム構築、価格交渉など、慎重な判断が求められるプロセスでもあります。
成功のカギは、信頼できる専門家とのパートナーシップと、十分な準備・情報整理にあります。事前に流れを理解し、自社の状況や目標に応じた最適な方法を選択することが、円滑な売却・譲渡の実現につながります。
この記事が、会社売却・事業売却を検討する経営者の皆様の参考となり、よりよい決断につながることを願っています。当事務所では、数多くの会社売却(M&A)をサポートしてきた実績があります。お悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
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