事例の概要
A株式会社(以下「A社」)の大株主であり創業者でもある依頼者の父が亡くなった。依頼者はA社の経営に参画したことはなく、相続後もA社の経営に参画するつもりはなかったので、父から相続したA社株式を関係会社株式も含め現金化することを望んだ。
A社の業績は特段良好ということではなかったが、創業者による長期にわたる健全な会社経営により財務内容は非常に良く、また長年の蓄積により会社保有の現預金は関係会社も含めて90億円近くもあり、A社が自社株式を相続人である依頼者から買い取っても会社経営には影響がないことが検証されたため、依頼者は父から相続した関係会社株式を含む株式の大半をA 社及び関係会社へ自社株として売却することとした。
その結果、A社と関係会社が保有する現預金のうち運転資金を差引した残額を依頼者へ移管し、相続税および所得税などの納税を乗り越えたうえで依頼者個人が多額の金融資産を獲得することが出来た事案である。
A社の概要
業種 | 製造業 |
規模 | 年商 約15億円 |
従業員数 | 約50名 |
株主の状況、株主構成
創業者が直接又は関係会社を介して間接的にA社株式をほぼ100%保有していた。
交渉の経過と解決結果
まずは関係会社を含むA社の保有する現預金を法律面・税制面から適正にかつ依頼者にいかに有利に移管するのかの手段の検討から始め、依頼者と幾度となく協議した結果、依頼者は「会社とその従業員を存続発展させること」に重きを置きたいとの意向が強かったため、自社株式の売却をする手段により現金化する方針で進めることになった。
次に、依頼者は多額の相続税を申告期限までに納税する必要があったため、相続したA社株式を自社株としてA社に売却し、依頼者は相続税納税資金を確保した。依頼者は相続税納税資金を確保したことにより安心して次のステップに進めることが出来た。
なお、税制面では、自社株売却は本来、みなし配当として所得税の総合課税の対象となり超過累進税率による所得税が課されることになるが、本件のように相続した株式を相続税申告期限後3年以内に自社株として売却したときは株式の譲渡として扱われる特例適用により、税負担は軽減されることになった。
依頼者が父から相続した株式の中には関係会社の株式も含まれるため、関係会社は自社株を依頼者から買い取るための資金を確保する必要があった。そのため、関係会社が保有するA社の株式をA社が自社株として取得し、対価としてA社から関係会社に資金を移管させた。これにより関係会社は依頼者から自社株を購入する資金を確保することが出来た。
上記(3)により自社株の買い取り資金を確保した関係会社は依頼者から順次自社株を買い取り、依頼者側は株式売却により売却資金を取得したうえで相続税や所得税の納税を完了し、最終的に多額の資金を獲得することが出来た。
担当者よりひと言
本件では、依頼者の目標達成のために事前に入念な戦略を建て、そして各々戦術として確実に実行することが重要でしたが、申告納税の期限という限られた期間内に目標を達成しなければなりませんでした。本件の目標が達成できたのは当事務所の最大の強みである弁護士・会計士・税理士の専門家によるチームを編成して挑んだことです。
また、前述に、「交渉の経過と解決結果」を要約して記載していますが、実際には、目標達成のためには各々の局面で会社側の協力が不可欠であったことは言うまでもありません。しかし、会社には従業員をはじめ創業者一族とは異なる立場の人が大半を占めています。中には会社の資金が流出することに難色を示す会社の幹部もいましたが、そのことは当初より想定されたことではありました。本件は担当チームメンバーが豊富な経験を下に会社幹部との折衝を行い説得に成功し解決に至っております。実績と経験が豊富な専門家チームが問題解決には不可欠であることを改めて実感しました。