事例の概要
上場会社甲の経営者Aが亡くなり、その妻Bと子供C、Dの2名(Dは先妻の子)が相続人であった。被相続人Aは、経営する上場会社甲の株式を多数保有するとともに、甲社株式を多数保有する資産管理会社乙の株式(非上場株式)を100%保有していた。当事務所は、Aの妻から相続手続及び相続税納税手続を受任した。
Aの相続人は、多額の相続税を納税するための資金を確保する必要があったが、上場株である大量の甲社株式を市場で売却するのは困難であった。一方、会社の経営には参画したことはないことから、当事務所は、甲社株式を多数保有する乙社自体を第三者に売却することにより納税資金を調達することを助言し、相続人らもこれを了承した。
当事務所が買手候補者を探索し、結果、著名ファンドに対し、乙社を約140億円で売却することに成功した。
乙社の概要
業種 | 上場株式及び甲社グループ会社株式を保有する資産管理業。 |
規模 | 純資産約60億円、利益3億円以上、配当5億円以上である。 |
株主の状況、株主構成
相続人Cが株式を100%保有している。
交渉の経過と解決結果
まず、Aは遺言書を作成していなかったため、Aの相続人間で遺産分割協議を行う必要があった。先妻の子Dとはほとんど交流がなかったため、当事務所からDに対し、Aの相続財産を開示し、遺産分割協議の打診を行った。一方、Cは未成年であったため、家庭裁判所に特別代理人の選任を申立て、弁護士Eが就任した。B、C特別代理人E、Dの間で遺産分割協議を行い、ほぼ法定相続分に従った遺産分割協議が成立した。その結果、乙社の株式は、Bが50%、C、Dが各25%を保有することになった。
Aの妻Bには配偶者控除の適用があるものの、C及びDに対しては多額の相続税が課せられ、申告期限までに納税する必要があったが、前記のとおり上場会社である甲社の株式を大量に処分することは実際には困難であった。一方、甲社からは、乙社が保有する非上場のグループ会社の株式のみを買い取るとの意向が示されたが、最終的な提示金額は同意できる内容ではなかった。
そこで、当事務所は、甲社株式を大量に保有する乙社自体を売却することにより、納税資金を確保する方法を相続人に助言し、相続人らから了承を得た。
乙社の買手候補者を探索したところ、著名なファンドが興味を示し、売買交渉を行うことになった。乙社の保有資産が上場株式である甲社株式であるため、資産状況が日々変動することから、譲渡価額を決めた上で、譲渡実行日までに一定の値動きが生じた場合には譲渡価額を変動させるとの内容で合意した。
その結果、最終的に乙社の簿価純資産60億円を大幅に上回る約140億円で売却することができ、C及びDの納税資金を確保することに成功した。
担当者よりひと言
本件では、Aの相続人は、会社との関わりが全くなく、Aの後を引き継いだ代表者との関係も良好ではありませんでした。実際、会社側から提示された条件は、会社側に都合のいい内容で、到底相続人らが満足できるものではありませんでした。そこで、会社側の協力を得ることなく、独自に納税資金を調達する必要性が生じました。
当事務所は、乙社の資産内容からして、買手候補としてはファンドがふさわしいと判断し調査した結果、予想通り、著名ファンドが興味を示し、会社ごと売却することができました。
このような事案では、相続開始から相続税納税期限までに、スムーズに遺産分割を終え、如何にして納税資金を確保するのかを、当初から計画を立て、迅速に実行していく必要があります。その意味で、経験豊富な弁護士と税理士がチームとして問題解決に取り組んでいくことが必要不可欠であると思います。